2021年7月15日木曜日

ジャンボタニシ対策

 スクミリンゴガイ,通称ジャンボタニシ対策については,昨年,農林水産省がマニュアルを出した.その中には多数の方法が示されており,必須事項と選択事項に分かれている.






必須事項としては,①冬季耕耘,②浅水管理,③薬剤散布,④人為的異動の制限の4つである.選択事項は捕殺,卵殺,石灰窒素散布,水路泥上げ,早植え,輪作,生物防除など多岐にわたる.しかし都市伝説みたいなものも含まれており,問題は多いと思われる.

特に注意すべき点について以下に列挙する.

・冬季耕耘 : ロータリーで耕すことにより,地中で越冬している個体を地表面に引きづりだして寒さで駆除する,さらにはロータリーの爪で物理的に破砕するというものである.しかし,圃場をよく観察すると,スクミリンゴガイは自分で穴を掘って地中に潜ることはできないため,ほぼほぼ地表面にいることがわかる(例外として,除草剤でフカフカになった畦畔や中干しで生じた亀裂).地中に潜っている個体がいるのは,耕起して土塊に隙間が生じた圃場である.つまり,耕耘は地表面で死ぬ運命にあった個体をわざわざ土中に潜らせる行為に他ならない.実際,冬季耕耘を行った圃場での被害が多い傾向がみられている.耕起するならば,少なくとも地表面の個体が死滅した2月になってからである.また,ロータリーの刃の構造を見いればわかるが,物理的破砕はほとんど期待できない.

・浅水管理 : 浅水ではスクミリンゴガイの行動が抑制されるが,湛水深を1cm以下にしないと目に見える効果はない.そこまで浅水にするためには,レーザーレベラーなどを用いて田面の均平度を相当なレベルで管理しなければ雑草が生え放題となってしまう.なので浅水管理による対策が効果的な圃場とそうでない圃場は明確に分かれることとなる.合わせ技としてはいいかもしれないが,主力にはなれない方法である.

・石灰窒素散布 : 薬剤散布に準ずるが,春先の石灰窒素散布が推奨されている.これはかなりの魚毒性を示すことが明らかになっており,個人的にはやってほしくない.役場に行くと,水田生態系保全を進めている部署のすぐ隣で石灰窒素を奨励している・・・切ないですね.

・早植え : 文句ばかり言うのも何なので,早植えに1票.スクミリンゴガイが食べにくくなるサイズで田植えすれば食害が減るというもの.幼苗でなく中苗移植も効果的である.とはいえ分げつを食われるとそれなりに収量は低下する.入水時に苗がしっかりしている乾田直播が最も効果的だと思われる.

・輪作 : 田畑輪作が奨励されている.岐阜県のように2年三毛作(水稲,ムギ,ダイズ)ならいいのだが,西日本で行われている1年二毛作(水稲,ムギ)は逆効果である.冬季耕耘で述べたように,1年二毛作では水稲後に耕起された麦畑で地中に潜り放題となり,越冬後は水稲のために湛水するからである.2年三毛作であれば少なくとも1年半は水がなくなるので個体数抑制効果は高い.

・生物防除 : いわゆるバイオマニピュレーションである.アイガモ,コイ,カメ類が紹介されているが,脱獄含めその影響が把握できないので極めて危険である.


いずれにせよ,駆除という行為は他の生物にも多大な影響を及ぼす.生物を選択的に取り除くということは至難の業なのである.


いろいろ文句じみたことを述べてしまったが,これらをちゃんと数値化してより良い防除方法を広めていきたいと考えている.そのため,現在,様々な圃場において,管理履歴と被害状況を調査し,それらの関係について調査分析を行っている.今のところ,厳冬期後の耕起,乾田直播を含めた輪作体系の導入,被害多発エリア周辺における越冬場所叩き(被害が多い場所のすぐ近くで湧水など越冬条件の整っている場合が多い)などの組み合わせが効果的ではないかと思われる.


最後に捕殺用のトラップについて.

地元のプラスチック加工メーカーと協力してジャンボタニシトラップを作成している.結構入ってくれるのだが,個体数の多い圃場ではすぐにいっぱいになって回収の手間がかかってしまう.かといって大きくすれば強度の問題で重くなる.さてどうすればいいか?








昔,アメリカザリガニのトラップを思案しているときに思いついた,無限ザリガニホイホイを応用できないだろうか・・無限ザリガニホイホイとは,アメザがいったん中に入ると出られない構造にしておけば,中で共食いが始まるため,回収しなくても無限に駆除が続くという画期的なものである.ジャンボタニシは生きた個体こそ襲わないが,その死体には群がる.そこでトラップ内にソーラーパネル駆動のプロペラを内蔵し,中に入ってきた個体を定期的に破砕すればそれが誘引餌となった上に食べられてなくなっていくという夢のような代物である.コストはかかるが,回収不要であれば初期投資を惜しまない農家は多いはずである.

ん,待てよ・・・何もせずとも中で死んでしまえば餌になるよな・・・トラップを長期間ほっといたらどうなるか見てみよう.



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